2日目。
今日のハイライトは間違いなく唐松岳を越えた後の「不帰嶮」
いわゆる北アルプスの三大キレットと呼ばれる不帰キレットだ。
まさにこの旅の核心部。
[三大キレット]
大キレット(槍ヶ岳~穂高岳)
八峰キレット(五竜岳~鹿島槍ヶ岳)
不帰キレット(白馬岳~唐松岳)
~Wikipediaより
Day1(■)
Day2(■)
Day3(■)
Day4(■)
Day5(■)
SectionA(八方尾根~親不知)(■)
SectionB(八方尾根~上高地)(■)
2日目のルートはもちろん不帰キレットを越えられるか次第なのだが、
予定としては、
唐松頂上山荘~不帰キレット~天狗の大下り~天狗山荘~鎚ヶ岳~杓子岳~白馬山荘(頂上宿舎テント場)
こんな感じ。
さて、どんなもんでしょ。。
朝は4:00過ぎに目覚めて、あとでキレットを渡る前に登ることはわかってはいたが、
小屋泊の宿泊者と同じように唐松岳に登って日の出を眺めることとした。
その景色はもう、墨絵のように美しく、重厚な景色だった。
モルゲンロートに染まる劒岳。いつか登ってみたいなぁと思っている。
あちらはまぁ、そのうち。
振り返って唐松岳頂上山荘の方へ目を向けると、
登るのが面倒だったのか、手近な小屋上の一番高いところから朝陽を眺めているようだ。
山のちょこちょことしているのがヒト。
それにしても美しい朝。
小屋前にテントを張っていたのは自分を含めて5張。
小屋裏に3張程度でテントは合計10張もないくらいだった。
こんな残雪期にテント泊なんてそうそういないか。
朝ごはんは最近お気に入りのスープパスタと無印バウム。
コーヒーはクピルカで飲むのが気に入っている。
多少重くても雰囲気出るしね。この時間が結構好き。
そろそろ出るかとテントを畳み、諸々準備を済ませる。
朝のトイレに行くと小屋はトイレ待ちでかなりごった返していた。
トイレを済ませて7:00前に出発!
いざ、不帰キレットへ!
なんだか、いつになく緊張している。
こちらが今回の荷物。
こうやってみると結構入っているな。
今回からアルコールストーブを投入。
アルコールは一日100ml使ったとしても5日分として、
念のため500mlをボトルに入れてきた。
ストーブはFreelightのFrevoRストーブを使っている。
火力が強くて良い。というか、強すぎる。。
そこで、RSRの炎抑制リングを使っている。
それだけで炎の立上りが弱くなり、アルコールも長時間燃焼になる。
2枚のSUS板でストーブを挟んで木の葉型をつくっているのが
風防兼ゴトクとして使用しているVertex ULstove。
重量は50g。
風防としては格別の重さかも。
これは元々固形燃料用だが、試してみたら意外と風防兼ゴトクにも使用できそうなものだ。
日本では売ってないんじゃないかな?Campsaverで他のgearと一緒に購入
このゴトクについてそのほかに期待しているのは、
森で小さな焚火くらいならできるんじゃないか?ってところ。
ま、そのへんは当然いろいろありますのでみなさん自己責任てやつで。w
さて、パッキンもすっきりとまとまった。
昨日、いろいろと食べたので意外と物が減ったのか?具合よい。
少し軽くなり、ザックがスリムになったような気もする。w
7:00過ぎにハイク開始。
まずは朝方に登った唐松岳を再度登る。
早朝に目視確認した感じだと、雪はそんなについていないんじゃないか?
ダブルアックスが本当にいるというのはどんな場面だ?
そんなことを考えてた。
唐松岳から不帰キレットをみると行けそうな雰囲気。
もちろん核心はその奥なんだけど。
それにしても雄大な景色。
この見えているそこかしこをこれからずっと歩くのだ。
通常、不帰キレットは白馬側から見て「天狗の大下り」「Ⅰ峰」
「Ⅱ峰」「Ⅲ峰」と名前がついているように
唐松岳側からではなく、白馬岳側から登る(下る?)のがほとんどのようだ。
下りが急にならないようにプランすることが通常なようだ。
横からの写真だけではわかりづらいところもあるが、
Ⅰ~Ⅲ峰のうち、一番の難所がⅡ峰で、Ⅱ峰は北峰、南峰とがある。
ここがどの程度の状態かっていうところが肝になる。
「天狗の大下り」のことは特に怖そうとは考えていない。
だって、下るのではなく「登る」んだし。
今回は残雪期の上、反対側(唐松岳側)からのチャレンジ。
状況がわからないが、いまさらながらちょっと無謀すぎたかなぁ。。
唐松岳から下ってくると、キレットなんていいながらこんなユル登りがあったりもする。
朝のキリッとした空気の中歩くのは気持ちいい。
ユル登りを経て、先にそびえるⅢ峰を見やる。
見た感じは特に問題なさそう。特に気になっているのは、雪の付き方。
これくらいならまだチェーンスパイクすら必要ないだろう。
まぁ、まだまだこんなものではない。
と思いたい。。。
Ⅲ峰は幅が細いリッジなどもあったが、
特に危なげなく歩くことができ、Ⅲ峰からⅡ峰をみやる。
そうだよねそりゃこうなってるよなー。って感じ。
あの中央の、ガガガガーってなってるところが危なそう。。
ま、近くに行くまでわからないけど。
さっきまでのトレイルとは違うよな。。
やっぱりねー。
Ⅲ峰からⅡ峰の区間、不帰Ⅱ峰南峰(唐松岳側)は確かに険しかったし、
足を踏み外せば真っ逆さまというシチュエーションの連続だった。
細いリッジを綱渡りのようにわたる場面もあって、ヒヤヒヤしたのも確かだった。
だけど、不帰Ⅱ峰北峰(白馬岳側)に到着してみると、
ここはそんなもんじゃなかった。。
まさに崖。
ここで写真を撮っているということは、しばらく落ち着ける場所に出れて
歩き出す前に一息つこうとしている証拠。
そして、コリャ、どうしたもんだと考えあぐねている。
これは、Ⅱ峰北峰の途中のテラスのようなところで上を向いて撮った一枚。
完全に崖になっている感じ。
息はハァハァとし、心臓もドキドキしている。
「よしっ」「よしっ」とヒトリゴトで自分を励ましつつ、Ⅱ峰北峰に挑む。
見えているルートには特に雪はついていないし、
足を滑らせなければ慎重に行けばなんとかなると思った。
ほら。
ダブルアックスなんかいらない。
行ってみなけりゃわからないもんだ。
そのかわり、ロープがあると助かったと思うけど。
慎重に慎重に。
一歩ずつ足元を確かめながら、あるいは、3点支持を確認しながら歩を進める。
いい天気。風もない。
なんとかやれるんじゃないか?実際よくやっている。
そんなことを考えながら、足を踏み外した後の悲惨な状況をアタマに浮かべないよう
ひとりで口に出しながらゆっくりと降りていく。
やがて、1段目の、「テラス」といえるのかは謎だけど、
「両足で立てる場所」までは来れた。
既に、この先が万が一ダメだったとしても、
もう一度この岩場を登りたくもない。。
写真右上の岩場の向こうがⅡ峰北峰のピークだと思う。
このpicがあるということは、
安心できる場所を確保した上で撮ったものだろう。。。
なんとかいけそうだな。なんてことを考えてまわりを見渡すと、
ルートマーキングの○印が見当たらない。
そして、大量の雪。
今いるのは、細いリッジを渡り、4,5mくらいのステップのような場所。
ここで、10分以上はうろうろしていただろうか?
犬のようにぐるぐるぐるぐるまわりをみて、
マーキングが必ずあるはずだと探し回った。
ない。
まわりは崖に囲まれているため、×印しか見当たらない。
これはもう、直観でわかってはいたことだが、
雪の中に○印があるとしか考えられない。
ヤバい。。
とうとう雪でルートが途絶えてしまった。。
ふと思い出す。
今履いているのは、Hokaoneoneのトレランシューズ。
そして手持ちのアイゼンがあるくらい。
ここまでは雪もなかったのでアイゼンが岩に引っかかることを嫌って付けずにいた。
雪の向こうは果たして道があるのか?
一度、リッジを戻って確認してみたが、雪の向こうまでは見えない。
どうやれば雪の向こうを確認できるのだ?
いや、上から目の端に見えていた景色を思い返せば、向こう側は絶壁だったはず。
さらにいえば、この雪下に「地面」はあるのか?
雪を踏み抜いてしまうという可能性もなくはない。
いろいろな疑問が浮かんでは消える。
最善を選ばないと本当にやってしまうかもしれない。。
後ろからはもちろん誰も来ない。
雪の向こうを確認できない以上、×印が使えるのか可能性を探るしかない。
6~8か所くらいだったと思うが、
四つんばいもしくは腹這いになって一ずつ確認する。
そのうちの1ヶ所を気になってみてみると、
上から見た感じではなんとなくルートがみえてきた。
もう一度まわりを見渡したが、やっぱりコレしかない。
一旦安全なところまで戻り、考えてみる。
「唐松岳へ戻る?戻らない?」
この先へ旅するならもちろんここを克服する以外方法はない。
目の前の×印を眺めて、息を吸い、咆哮した。
「わーーーー!わーーーー!」叫びまくった。
心臓が早鐘を打つ。
自分の心臓の音で頭がくらくらした。
ようやく落ち着いて、足を踏み出して、手探りの「崖」に挑むことにした。
上から見た「見えないみち」を手探りで探し当てていく。
あるある。いけそう。3点支持で体を支えながら探し当てていく。
ここでハッとなる。足が岩に触れない。
正確に言うと、足の指先がひっかかりに触れないのだ。
下をみると2m程の大岩もしくは岩盤になっており、ひっかかりがないのだ。
その岩の横は、もろく崩れそうなガレ場。
ここが正念場と覚悟した。
心臓の音がさらに早くなる。
右手と左手で、岩をつかみながらなんとか体を移動していく。
とてもゆっくりとした動作だ。
テレビや雑誌で見るクライマーばりに手を伸ばし、
脚を太ももに含めてぴったり岩に密着させる。
なんとか体重を岩に預けられそうだ。
しかし、足の指はあと80㎝先の足の置き場にはもちろん届かない。
体重を預けられるような足の置き場は30㎝×20㎝ないくらいだ。
たかだか高さ80㎝くらいか?
そこにジャンプして下りる勇気がすぐに出ない。
声にならないような声で咆哮して、叫んで、
実際は滑り降りるようにしてジャンプした。
「おおおぉぉ。。」なんとか立てた!!
そこからは無我夢中で、しかし正確に一手ずつ確かめながら降りていった。
何と表現していいかわからないがこれは地獄だった。
崖を降り切って、文字通り降り切ってホッとしたところに、
人の声が。
人?
Ⅰ峰側から人が来たのだ。
つまり、この先は人が歩いて来れるということだ。
ここで安心してしまった。
そしてこの人も同じことを考えていたらしい。
人の叫び声がするから自分の先で人がいるのだと考えていたとのこと。
さっき経験した自分の知る限りの情報を彼に預けた。
僕は下りてきたけど、彼はこれから登る側だ。
登りならなんとかなるだろう。
地獄のような崖を降りてきて思ったのは、
やはり×印は行ってはいけないんだと再認識。w
もちろん、残雪状況じゃなければ絶対に行くことにもならないんだけど。
出会った彼のお名前を聞いたかもしれないけど失念。
最後登り切ったのか確認ができなかったけど彼の無事を祈る。。
Ⅱ峰北峰を降り切った。(登り切ったのではなく)
よかった。これでまた先を続けられる。
このあとに続くハシゴやクサリなんてものは、
あるだけましと考えることができて
楽勝に感じてしまった。
何もない、自分の体だけで降りることを考えれば、
それ自体「ある」ことが安心なのだ。
振り返ったⅡ峰北峰の全貌。
picの一番上の雪の部分が僕がトラバースした部分と思われる。
中央部分くらいに来た時に、後ろからきた人たちがいたようで、
しきりに僕にルートを聞いていたが、結構な距離を離れていたこともあり、
声がうまく届かなかったようで違うルートを選び、降りようとしていたが、
彼らも降りれないということが分かったみたいで、もと来た道を戻っていった。
だけど、今考えると戻ることすらこれまた大変だっただろうに。。
僕と写真を撮ってくれた彼は、僕がトラバースした雪壁に取りついていたようだった。
僕とは違い、当然アックスも、アイゼンももっていたし。
しかし苦戦していた。
雪に阻まれ、なかなか登りきることができなかったみたいだ。
その後は距離が離れていってしまって遠くなって見えなくなってしまった。
無事越えれているといいのだけど。。
その後、挑まなければならないのは「天狗の大下り」と呼ばれる急傾斜の下りだが、
唐松岳側からくると登りなので、特に問題ない。
過度にアドレナリンが分泌されたからか、
はっきりいって、長い急傾斜程度にしか思えなかった。
天狗の大下りを登りきったところから振り返ると、こんなに絶景が広がっていた。
ホントに克服できて良かった。。
不帰キレットと天狗の大下りを終えて
天狗の頭にたったのは10:30くらい。
地獄のあとには、ご褒美とも思える極上尾根が待ち構えていた。
ズッット歩いていられるような感じ。
いやーほんと素敵な場所だ。
北アルプスは最高だ。
どこまでも続く極上の尾根。
まだ、冬の羽毛の雷鳥にも出会えた。
初雷鳥。w
さっきまで地面が岩岩していたのに、
だんだん白っぽい地面に変化していっている。
八ヶ岳でもそんな風になっていたけど、
北アルプスでも地質が変化していくのはおもしろい。
この先に天狗山荘がある。
天狗山荘に到着。当然小屋はやっていない。w
ここら辺で、まとまったきれいそうな雪を集めて
ナルゲンの水用パックに詰め込んで水を作る。
すぐに溶けるわけでもないが、歩いているうちに溶けてくるだろう。
5月の頭だというのに、暑すぎる。。
天気がよすぎるのだ。
ここら辺で大休憩をしようと思い、お昼をたべることにした。
パスタ。まずい。
塩を入れ過ぎたようだ。w
山ではパスタがうまく出来たためしがない。。
ま、それでも腹は膨れるのだけど。
昼飯を12:30くらいにとり、ぼーっとしていると、
陽気のせいか、緊張感がとけたせいか気持ち良ーくなってごろんとしてみた。
ま、写真はやらせだけど、実際本当にシエスタをとってみた。
30分以上本気寝をしてしまったみたい。
いやー復活。気持ちよかった!!
疲れもだいぶ回復したみたい。
シエスタ、オススメです。w
さて、雪上散歩をしながら、白馬を目指す。
地質が明らかに変わってきた。
相変わらずの稜線上で視界の開けたユル登りの極上トレイル。
鎚ヶ岳には数人のBCマニアが。
気持ち良さそうに滑っていったなぁ。
登り半日、滑り20分だって。w
写真左端にスキー板が立てかけられている。
振り返れば絶景ね。
お決まり。
ほんと、気持ちいい。
14:00過ぎに淡々と杓子岳を歩いて。(もちろん巻道を。)
巻けるところはどんどん巻いていく派です。
15:00過ぎ。
ようやく白馬岳頂上宿舎と奥の白馬山荘が見えてきた。
中央の黒とんがりの左側が白馬岳頂上宿舎とテン場で頂上の少し下に白馬山荘がある。
15:30くらいに白馬岳頂上宿舎に到着し、テン場にテントを張った。
なんというか、脚はへろへろになっていた。
ビールが飲みたくて飲みたくてしょうがなかったため、上の山荘まで登る。。
白馬岳頂上宿舎は当然小屋閉めとなっていて、
トイレやビールなど飲料をゲットするためには
20分くらいかけて登らなくてはならない。
これが結構きつく、風も出てきて寒い。
上着にナノパフハイブリッドを着てビールを目指す。
実は、どうせ行くならとテント場にいる人に「おつかいにいってくるよ」コールしてみたら、
お駄賃としてビール一本おごってもらった。w
いやぁ、ラッキーラッキー。
無事にビールを買い終えて頼まれた飲料を渡す。
そして、自分のテントに戻り、ビールを飲み、
今日の晩飯のビーフシチューを食らう。
これがまたうまかった!
疲れた体に染み入るうまさ。
ホント疲れた。。